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なおいまい『ゆりでなる♡えすぽわーる』1巻感想 苦みを隠した糖衣薬のような百合漫画

作品概要

タイトル:ゆりでなる♡えすぽわーる
著者:なおいまい
出版社:徳間書店(リュウコミックス)
巻数:1巻(以下続刊)

余命1年(精神的な意味で)の女の子が、心の寄る辺として理想の百合を妄想しスケッチブックにしたためる。
妄想と現実、様々な百合事情が入り乱れる百合ストーリー

 

あらすじ

高校卒業と同時に政略結婚をさせられることになってしまった、お金持ちのお嬢様・駒鳥心(こまどり こころ)。
百合好きな彼女にとって、男との結婚なんぞ「死」と同義。百合世界の住人になれないのなら、いっそ創る側になることを決意します。

美術部員である駒鳥心は、卒業までに「百合スケッチブック」を完成させることを、同じ美術部員の雨海(あまみ)に宣言。

街に繰り出し、道行く女子2人組を見つけては妄想を膨らませ、理想の百合をスケッチブックに描いていくのでした。

  

感想(ネタバレ度:中)

妄想の「前編」、現実の「後編」

この作品の最大の特徴は、全ての話数が「前編」と「後編」に分かれていること。

基本的には「縦軸」となる駒鳥さんと雨海さんのストーリーが進行しつつ、前編では街で見つけた「イイ感じの女子二人組」をネタにした、駒鳥さんの妄想が展開されます。

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出典:なおいまい 著『ゆりでなる えすぽわーる』1巻 / 徳間書店

女の子たちの見た目や距離感から色々と推察した、バリエーション豊かな百合妄想の数々が楽しめます。

そして後編は、前編の「答え合わせ」と言いましょうか。
駒鳥さんの妄想ターゲットとなった女子二人組の、実際の関係が描かれています。

その「実際の関係」というのが、これまた駒鳥さんの妄想の斜め上を行くこじれた関係になってまして。
妄想ゆえに理想を描いた甘々な前編に対して、現実を描いた後編はけっこうビターだったりで、その対比も面白いです。


このような特徴的な作品の構成により、バリエーション豊かな百合カップルが多数登場し、まるでオムニバス作品を読んでいるように色々な百合シチュエーションが楽しめます。

 

表紙と内容のギャップ

ひらがなで書かれたお気楽なフォントのタイトルとポップな絵柄から、読む前は甘々でゆるゆるな内容を想像していました。

それに違わず、基本的にはコメディなノリで話が展開していきますが、その背後には「闇」というか「狂気」というか、そういう不穏なものが潜んでいます

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出典:なおいまい 著『ゆりでなる えすぽわーる』1巻 / 徳間書店

そして忘れたころに、その「闇」が顔を覗かせる。
コメディで和んで油断している脇腹に、イヤな角度からパンチをえぐり込んでくる、そんな感じです。

表紙と内容のギャップは本作の魅力ではありますが、外身と中身が違うというのは時に悲劇を生むもの。
本作のような毒っ気のある内容を求めている人が、この表紙を見て

どうせヌルい作品なんでしょ?
ワタシはもっと刺激的な百合が読みたいの!

と、スルーしてしまうかもしれません。
逆に表紙から想像するような、甘々でゆるゆるな内容を期待してた人が

な、なんやこれ…
思ってたんと違う…。

と、あまりのショックから失禁してしまうかもしれません。

せめて裏表紙ででも、この作品の「ヤバさ」を軽く臭わすような工夫があっても良かったんじゃないかと思いました。

 

まとめ

甘いケーキだと思って食ったら中にゴーヤが入ってた、そんな感じの作品でした。

男の気配が全く感じられない世界で、女性同士の恋愛に誰も疑問を抱かず自然に受け入れる。
そういうヌルい百合が好きな私としては、正直苦手なタイプの作品です。
男はガッツリ話に絡んでくるし、百合に対する偏見も出てくるし。

それでもその苦手意識を軽く上回るほどの面白さで、表紙とのギャップも相まって今年読んだ漫画の中でもトップクラスの衝撃度でした。

百合好きはもちろん、そうでない人にもこれはかなりオススメです。

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