作品概要
タイトル:東独にいた
著者:宮下暁
出版社:講談社(ヤンマガKCスペシャル)
巻数:1~2巻(以下続刊)
1985年の東ドイツを舞台に、体制派と反体制派の戦いを描いた作品。
あらすじ
ドイツがベルリンの壁で東西に分かれていた冷戦の時代。
社会主義国である東ドイツで生まれ育った女性・アナベルは、監視と統率の徹底された母国に監獄のような息苦しさを感じながらも、強い愛国心を抱いていました。
そんな彼女が仄かな想いを寄せているのが、小さな本屋を営む日系人・ユキロウ。
身なりを整え、足しげく本屋に通うアナベルでしたが、穏やかな文学青年であるユキロウに対して未だに自分の職業を伝えられずにいるのでした。
感想(ネタバレ度:高)
あきら200%
作者の宮下さんと言えば『魁!!男塾』に代表されるような、血と汗と涙と筋肉に彩られた暑苦しい作風のイメージがあります。
そんな漫画家さんが、随分と雰囲気の異なる作品を描かれるんだなぁ思いましたが…。宮下は宮下でも「あきら」ではなくて「暁(あきら)」でした。
なーんだ。
「あきら」じゃなくて「暁(あきら)」かぁ。
は……?
「あきら」で合ってんでしょ?
いや、「あきら」じゃなくて「暁(あきら)」なの!
だから「あきら」だっつってんじゃない!
とまぁ、口に出すと同じになってしまうので分かり辛いですが、こちらの暁さんは本作でデビューされた新進気鋭の漫画家さんみたいです。
ツイッターで感想をつぶやくとリツイートした上でフォローまでしてくださる律儀な方で、単純な私はそれだけで応援したくなってしまいました。
アナとユキロウの慕情
さて、作品の内容はと言いますと。
ここからはちょっぴりネタバレ多めなので、フレッシュな気持ちで読みたい未読の方は注意してください。
アナちゃんがユキロウに対して打ち明けることが出来ずにいる自分の職業。
それは軍人です。
澱んだ支配政党や、その言いなりであるである自分たち軍人をふがいなく思いながらも、質素ながら慎ましく生きる国民たちを守るために反政府組織と戦う、軍人の鑑のような女の子です。
対して、ユキロウくんはと言いますと。
線が細く、ボーッとした頼りなさげな青年ですが……。
その正体は、反政府組織「フライハイト」のリーダー「フレンダー」であり、反体制派のカリスマ的な存在だったのです。
そんなユキロウくんにアナちゃんは惚れてしまったわけですが、二人の出会いは偶然ではなく、ユキロウがリクルート目的でアナちゃんに近づいたことがきっかけです。
要は、金銭等では動かなそうなアナちゃんを自分に惚れさせて、反体制派側に引き抜こうとしていたわけです。
もくろみ通りアナちゃんの心を惹くことは出来たものの、彼女の鋼の愛国心を目の当たりにしたユキロウは引き抜きを断念。
アナちゃんを殺すことを決意しますが、ユキロウの方も少なからずアナちゃんを想う気持ちが芽生えつつあるようで……。
なるほどね。
立場の違う2人の悲恋を描いた作品ってわけね。
ふーん。
恋愛物ってあんま興味ないなぁ。
と、思われた方もいるかもしれませんが、ちょっと待っていただきたい。
この作品はそれだけではないのです。
「静」と「動」
そもそも、なぜ反政府組織のリーダーであるユキロウが、わざわざ自ら一軍人に過ぎないアナちゃんを引き抜こうとしたのか。
その要因こそが、この作品の最大の特色でもあるのです。
ただの可愛らしいお嬢さんにしか見えないアナちゃんですが、その正体は……。
ビルからビルを跳躍し、カメラに映らないスピードで動いて素手で敵を屠り、銃弾すら受け付けない超人「神軀兵器(しんたいへいき)」。
彼女はそんな超人たちで構成された特殊部隊「MSG」の一員だったのです。
半端ないって!
アナちゃん半端ないって!
カメラに映らん速さでめっちゃ動くもん。そんなん出来ひんやん、普通!
冷戦時の東ドイツという渋い題材に、漫画らしいエンターテインメント性に富んだアクション要素。その「静」と「動」の緩急がたまらなく面白いのです。
この作品に対して不満点は特にコレといって無いんですが、唯一心配なのが結末として東西ドイツの統一が決まっていること。つまりアナちゃん側の敗北が決まってしまっていることです。
なんとかアナちゃんには幸せになって欲しいんですけど……。
まとめ
良いところ
- 冷戦時の東ドイツという珍しい舞台設定。
- 小難しい題材ながら、リアルとファンタジーをバランス良く融合させたエンターテインメント性の高い内容。
- 登場する女の子たちがカッコよくて可愛い。
イマイチなところ
- 雰囲気はあるけど、絵が綺麗とは言い難い。
- MSGメンバーの身体能力があまりにも人間離れし過ぎていることが、人によっては気になるかも。