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松本いっか『ブクロキックス』1巻感想 全盲の整体師とブラインドサッカーの邂逅

作品概要

タイトル:ブクロキックス
著者:松本いっか
出版社:講談社(ヤンマガKCスペシャル)
巻数:1巻(以下続刊)

アイマスクをしてプレイする5人制のサッカー「ブラインドサッカー」に挑む全盲の青年を描いた、新スタイルのサッカー漫画

 

あらすじ

池袋の整体院で整体師として働く全盲の青年小山田千洋(おやまだ ちひろ)。
ある日、客として訪れた日韓ハーフの女性・ジヘと偶然再会したことをきっかけに、ブラインドサッカーの世界に飛び込むことになります。

小山田のチームメイトは「チャラい先輩」「妻に逃げられたオヤジ」「ゲイバーのママ」「整体院の院長」と、アクは強いが頼りない人ばかり。

ブラインドサッカーがにわかに盛り上がる東京を舞台に、賞金1000万をかけて寄せ集め軍団の戦いが始まるのでした。

 

感想(ネタバレ度:中)

ブラインドサッカーの凄さを知ってほしい

本作の題材となっているブラインドサッカー、皆さんはご存じでしょうか?
ブラインドサッカーとは、視覚障害者がプレー出来るように考案された5人制のサッカーで、ゴールキーパー以外はアイマスクを着用して目が見えない状態でプレーします。
ボールの中には鈴が入っていて、選手はその音でボールの位置を判断しながらドリブルやパスを行い、そしてゴール裏に陣取るガイド(健常者)の指示を参考にしながら、シュートを打ってゴールを狙います。

いやいや。
そんなの普通に蹴ることすらおぼつかないだろ。

しかもキーパーは健常者って。
点が入るわけないじゃん!

だよなぁ。
試合として成り立つのかね。

多くの人がこう思うんじゃないでしょうか?
私も最初は失礼ながら「超つまんなそう」って思ってました。正直、見てられないんじゃないかって。

ところが実際、ブラインドサッカーを観て見ると……
これがなかなかの衝撃でした。


ワールドグランプリ2018 【ハイライト】02_GA_JPN_ENG

はぁ!?
何これ、うせやろ?

なにあのヌルヌルしたドリブル。
しゅごい……。

シュートも速ぇな!
…俺より遥かに上手いんだけど。

ホントに見えてないの…?と疑いたくなるなるようなプレーっぷりです。
ブラインドサッカーはパラリンピックの正式種目でもあるので、興味を持たれた方はぜひ東京オリンピックで(無事開催されれば)チェックしてみてください。

 

ゴールの瞬間のカタルシス

さて、本作はそんなブラインドサッカーと出会った全盲の青年・小山田くんのサクセスストーリーとなっております。
天性の物か、それとも子供の頃に健常者に交じってサッカーをやっていたことで培われたのかはわかりませんが、全盲ながら異常なまでのボールテクニックと空間認識能力を誇る小山田くん。

序盤から才能の片鱗を読者には度々見せてくれるものの、タイミングが悪くて登場人物たちは小山田くんの才能になかなか気づいてくれません。
本当は凄くデキる子なのに「まぁ小山田は仕方ないかぁ」という雰囲気で、人数合わせ的な立ち位置に甘んじてしまっているので、読んでいてかなりヤキモキしてしまいます。

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出典:松本いっか 著『ブクロキックス』1巻 / 講談社

さらには小山田の同僚で、口だけは達者なハルカとかいう野郎が終始イキリ倒しているのが凄くウザくて、かなりフラストレーションを溜めながら読んでました。

こ、この脂ぎった刈上げキノコがぁ~!!
少し黙ってろ!

また小山田くんが自己主張しない子だから…。
際限無く調子に乗り続けてるね。


そんな感じで、ウンコが出そうで出ない時のようなイライラともどかしさを感じながら読んでいると……。1巻の最後の最後で、ようやく小山田くんのスーパープレーが炸裂します。
試合会場は一瞬の静寂に包まれた後、「なんだあの男は!」の驚きと大歓声。そしてそのタイミングで2巻に続くというニクイ演出。

これはもう今までストレスが溜まりに溜まってた分、かなりスカッとして気持ち良かったです。
ストーリーとして面白いかどうかはまだ判断しかねますが、とりあえずこの快感が味わえただけでも1巻を読んだ価値がありました。

 

まとめ

ブラインドサッカーという、知られていそうだけど意外と知られていない競技の普及という意味でも、たいへん意義のある作品なのではなかろうかと思いました。

そういう御託を抜きにしても、単純に漫画として読ませてくれる内容です。
アクが強すぎるチームメイトと、それに埋没しない小山田くんのスター性、このキャラクターたちがどうなっていくのか2巻が楽しみです。

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